福井地方裁判所 昭和43年(行ウ)2号 判決 1969年6月13日
原告(選定当事者) 西川文右衛門
被告 福井県知事
訴訟代理人 川本権祐
主文
一、本件訴を却下する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
一、当事者双方の申立
(一) 原告
「被告が昭和四二年一一月二〇日原告に対してなした三和農業協同組合設立不認可処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
(二) 被告
主文第一項同旨の判決
二、請求原因
(一) 原告を含む別紙選定者目録記載の一五名(以下原告らという)は農民であるが、三和農業協同組合の設立発起人となり、昭和四二年五月三〇日右組合の事業及び地区並びに組合員たる資格に関する目論見書を作成し、同月三一日大野市新町二丁目二五番地三和農業協同組合事務所前及び同市要町一の九大野市酪農協同組合前の二カ所に設立準備会を同年六月一五日午前八時から大野市酪農協同組合において開催する旨を右の目論見書とともに公告した。
(二) このようにして開催された設立準備会に二六名の農民が出席し、定款作成に当るべき者として原告ら一五名が選任され定款作成の基本事項として、名称を三和農業協同組合、地区を大野市一円、事務所を大野市新町二丁目二五番地と定め、組合員の資格加入脱退その他は模範定款を研究して作成すること、出資は一口五、〇〇〇円全額一時払込とすることを決議した。
そして原告らは、右の趣旨に従つて同組合定款を作成した。
(三) その後原告らは、創立総会を同年六月三〇日午後二時大野市下庄公民館で開催する旨を大野市新町二丁目二五番地の事務所前と右公民館前に公告した。そしてこのようにして開催された創立総会において、組合員たる資格を有し、かつ設立に同意する者二六七名中一六七名が出席し、定款を承認の上事業計画を設定し、役員の選任等を決議した。
(四) そこで原告らは、同年七月一五日被告に対し、定款及び事業計画書を添付して三和農業協同組合の設立認可を申請したところ、被告は昭和四二年一一月二〇日農業協同組合法第六〇条第二号にもとづいて、不認可処分をしてその旨原告に通知した。
(五) しかしながら、同農業協同組合は健全な運営をなしうるもので、かつ何ら公益に反するものではなく、同条同号には該当するいわれはない。すなわち被告の本件不認可処分の理由は三和農業協同組合と同一地域に同一事業を目的とする大野市農業協同組合がすでに存在していて活溌な事業活動を行つているので、三和農業協同組合の設立を許す時は地域農民に無用の混乱を与え、信用事業を行う組合の適正な運営を保証することができなくなり、かつ農業協同組合事業全般を弱体化して健全なる発展を阻害する外、組合の事業も健全に行われないというのである。しかしまず右大野市農業協同組合の業務内容は、昭和四一年度と同四二年度を比較すると、預貯金額は減少し貸付額未収利息が増加していて決して活溌な経営をしているということはできない。また右農業協同組合は不正違法な融資を行つたため関係者四名が刑事訴追を受けており、組合員は現在右組合に対して非常な不安感をもつている状態である。しかして原告らが設立認可申請をした三和農業協同組合は、組合員三一二名を擁し、耕地面積は田のみで三一六町八反歩を有し、昭和四二年度の政府売渡し米は二九、〇〇〇俵余で福井県下の平均以上であつて、決して経営上の不安はなく、またその創立総会で選任された理事は責任感、信用、実行力において立派な人達ばかりである。更に三和農業協同組合が設立されることによつて、大野市農業協同組合が前記のような状態になつているものであるから、農民の被害を最少限にすることができ、三和農業協同組合は三一二名の組合員のみならず、大野市の農民に幸福をもたらすことになるのである。したがつて同組合は健全に運営され、かつ公益に適合するものであるから、被告のなした本件不認可処分は違法不当なものであるといわなければならない。
(六) よつて原告は、被告のなした右不認可処分の取消を求めるため本訴に及ぶ。
三、本案前の主張とこれに対する答弁
(一) 本案前の主張
農業協同組合法第五五条によれば、農業協同組合の設立には一五人以上の農民が発起人となることを要すると規定しており、その一五人以上という要件は、設立申請のときに具備しておれば足るというものではなく、設立認可を受ける要件であると解すべきところ、同法第六一条第五項では、発起人が不認可処分の取消を求める訴を提起した場合において、その取消判決が確定すれば、その確定した日に設立の認可があつたものとする旨を規定していることから考えれば、右の一五人以上の発起人を要するという要件は、本訴においては訴訟要件であるというべく、したがつて本訴は固有必要的共同訴訟と解すべきである。しかして右の設立発起人の地位は一身専属的なものであつて、相続による承継はあり得ない。そして本件の選定者の一人である訴外牛島正栄は、昭和四四年一月一日死亡し、本件の設立発起人は一四名となつたものである。よつて本件訴は、右の発起人が一五名以下となつたものであつて訴訟要件を欠き、不適法な訴として却下を免れない。
(二) 答弁
本案前の主張事実中、訴外牛島正栄が死亡したことは争わないが、その余の主張は争う。なお本訴は類似必要的共同訴訟である。
理由
本訴の適否について考えてみる。
本件の選定者中牛島正栄が昭和四四年一月一日死亡し、本件の設立発起人が一四名となつたことは当事者間に争いがない。
農業協同組合法第五五条は「農業協同組合を設立するには、一五名の農民が発起人となることを必要とする。」旨を定め、また同法第六一条第五項前段は「発起人が不認可の取消を求める訴を提起した場合において、裁判所がその取消をしたときはその判決確定の日に第五九条第一項の認可があつたものとみなす。」旨を定めている。また同法第五六条第一項は「発起人は目論見書を作成し設立準備会を開催しなければならない。」旨を同法第五八条第一項は「発起人は創立総会を開かなければならない。」旨を、同法第五九条第一項は「発起人は創立総会終了の後遅滞なく定款及び事業計画を行政庁に提出して設立の認可を申請しなければならない。」旨を定めている。しかしてこれらの条文にいう「発起人」はすべて発起人全員を意味し、発起人全員が一体となつて右の手続をなすべきことを要請しているものと解される。したがつて同法第六一条第五項にいう「発起人」もまた発起人全員を意味すると解すべきである。してみれば設立認可の申請手続は発起人が全員でしなければならないものであり、また同法の趣旨からすると、発起人が一五人以上いることが設立認可を受ける要件であるといわなければならない。そして発起人が提起する同法第六一条第五項の訴(不認可の取消を求める訴)も発起人が全員で提起すべきものと解すべきである。すなわち不認可処分取消の訴は、取消の判決の確定によつて設立認可があつたものとみなすという公益に重大な関係を有する形成判決を得ることを目的とした訴であるから、発起人全員について合一に確定すべきことを要するものであり、かつ右の不認可の取消の効力が各発起人について、法律上区々になつてはならない性質の訴訟である。したがつて発起人が個々的に不認可処分取消の訴を提起することを許すべきではない。
このように考えてくると、農業協同組合の設立不認可処分取消の訴すなわちその取消を求める権利の行使は、発起人全員が原告たることを要する固有必要的共同訴訟であると解すべきである。また前記のように、発起人が一五人以上いることが設立認可を受けるための要件であるとすべきものである以上、前記不認可処分の取消の判決の効力に鑑みれば、その訴訟の口頭弁論終結時に最少一五人の発起人が原告(又は民事訴訟法第四七条の選定者)となつていることが本案判決をする要件であると解するを相当とする。しかして農業協同組合の設立発起人たる地位は一身専属的なもので、相続による承継を許さないものであることは論ずるまでもないところである。
してみれば本件訴は、選定者のうち牛島正栄がすでに死亡していることは前記のとおりであるから、当事者適格を欠くに至つたものというべく、結局不適法な訴として却下を免れない。
よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 天野正義 高橋爽一郎 多田周弘)